今回は商標の登録を自分でやりたい、なるべくコストをかけずに調査や登録をしたいという人や企業の方向けに、現役弁理士(川口)が商標について徹底的に解説してみたいと思います。
この記事さえ読めば、自分で商標登録をすることもできるようになりますので(大変ですが)、長文ですが最後まで読んでみてください。
商標とは? 登録商標とは? 商標権とは?
新しい商品やサービスを展開しようとするとき、名前やマークを付けたい考えることがありますよね。これを一般に「商標」と呼びます。「登録商標」というのは、国家がその「商標」を、独占的に使用する権利「商標権」を与えた「商標」のことです。
では新たな「商標」を使用するときに、必ず商標登録をして「登録商標」にしないといけないか?というとそんなことはありません。しかし勝手に他人に商標権がある「登録商標」を使用すると大きなトラブル、つまり大きな金額の損害賠償請求を受けたり、商品販売の差止請求を受けたりしかねません。
ここではそのようなトラブルを未然に防ぐための方法を説明します。
トラブルを未然に防ぐには?
自分の使用したい「商標」が、商標登録されているかどうかを調査する必要があります。また逆に他人に真似されるトラブルも防ぎたい場合には、自らの商標を商標登録することが有効です。ここでは、まず商標権の範囲と登録商標の調査方法について説明します。
商標権の範囲
法律の条文をそのまま読むのはうんざりでしょうから、法律の内容だけを簡単に要約して書いてみると、「勝手に他人の登録商標と「同一又は類似な商標」を、「同一又は類似な商品(サービス)」に使用するのはダメ」ということになります。たぶん皆さんの常識と離れていないと思います。同じマークを同じ商品に使われたら、誰だって怒りますよね。
問題は、商標権の範囲の輪郭部分になる「類似」とはなにか?ということですが、ここが今回の調査のときに一番問題になってくるところです。まず商品、役務(サービス)が類似する範囲の調査方法について説明し、続けて商標が類似する範囲の調査方法について説明します。なお下記の検索方法は2018年9月25日時点での特許庁HP、および、J-PLATPATに基づいて記載されています。
商品、役務(サービス)が類似する範囲を調査する方法
登録商標は、商標とその区分で分類されて検索できるようになっています。そこで
現在、あなたが考えている商品やサービスが、既存の分類でどのような扱いになっているかを調べる必要があります。
具体的には「区分」と「類似群コード」を調べることになるのですが、その具体的な方法を、商標「快適介護クラブ」という新たな「介護サービス」を提供すると仮定して説明していきましょう。
類似商品・役務審査基準
「空飛ぶタクシー配車サービス」のような全くの新商品、新サービスであっても、なんらかの区分に含まれるような分類表が、「類似商品・役務審査基準」です。まずこれを頼りに、「区分」と「類似群コード」を特定します。そしてこれに基づいて、登録商標の中に類似する商標が存在するかどうかを探っていくわけです。
まずはGoogle(ちなみに、これもグーグル エルエルシー社の登録商標(商標登録第4478963号)です)のような検索サービスで「類似商品・役務審査基準」と検索します。
類似商品・役務審査基準[国際分類第11-2018版対応]がヒットしますので、それを選択します。
すると次のように特許庁のサイト内の該当ページに行くことになります。
この中で、類似商品・役務審査基準一括ダウンロード(PDF:4612KB)をクリックします。すると次のようなPDFファイルが表示されます。
お使いのPCやスマートフォンでPDFファイルが表示できない場合には、対応するアプリ等をインストールしてください。一般的にはAcrobat Reader が良いでしょう。
商品や役務の内容によって、特許庁が45種類に区分けした分類を商品・役務の「区分」と言います。
また「類似商品・役務審査基準」では、生産部門、販売部門、原材料、品質等において共通性を有する商品、又は、提供手段、目的若しくは提供場所等において共通性を有する役務がグルーピングされ、同じグループに属する商品群又は役務群は、原則として、類似する商品又は役務であると推定するものとしています。各グループの商品又は役務には、数字とアルファベットの組み合わせからなる五桁の共通コードである「類似群コード」が付されています。審査実務上、同じ類似群コードが付された商品及び役務については、原則としてお互いに類似するものと推定されます。
(特許庁HP https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/ruijigun_cord_reidai.htm等から引用参照)
調査方法(1)「区分」と「類似群コード」を調べる
さてPDFファイルの中で、「介護サービス」にあたる区分と、その商品・役務(サービス)の具体的な類似群コードを調べましょう。PDFファイルを検索して、「介護サービス」がどの区分に当たるのかを調べます。すると第43類と第44類に「介護」という言葉が含まれることがわかります。
第44類に、そのものずばり「介護」という言葉が含まれている類似群コードのあることがわかります(42W02)。
さらに調べてみると同じ類似群コードに含まれている他の区分の役務として、第43類の「高齢者用入所施設の提供(介護を伴うものを除く。)」が存在することもわかります。
詳しい「類似商品・役務審査基準」の見方については、「類似商品・役務審査基準」の1-19に書かれていますので参照ください。これで介護サービスについての「区分」と「類似群コード」がわかりました。
調査方法(2)呼称検索を行う
商標が類似するかどうかは、専門的に言えば「商標の類否の判断は、商標の有する外観、呼称及び観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察しなければならない」とあります。文字の入っていない模様だけの場合には外観で判断するしかありませんが、通常の商標には文字が含まれていることが多いでしょう。その場合には、その文字が表す称呼、すなわち「音」が類否の判断の一番大きな要素となります。
それでは無料で誰でも使用できる特許庁の検索サイトであるJ-PlatPatで検索をしてみましょう。
https://k-startup-consulting.net/wp/wp-content/uploads/2018/09/WS000001.jpg
ここで商標の部分にマウスカーソル(マウスポインタ)を移動させてクリックし、プルダウンメニューから、「3.称呼検索」を選んでさらにクリックします。
すると次のような画面が現れます。
赤丸で示した部分に、検索したい「快適介護クラブ」に該当する文言等を入力します。「称呼1」は、商標を読む「音」ですから、普通に考えれば「かいてきかいごくらぶ」ですが、これは片仮名で入力します。具体的には「カイテキカイゴクラブ」と入力します。
ここからが少し難しいのですが、この商標の中でどこが特徴的かを考えてみます。すると、「クラブ」には特徴が無く識別性も無いと考えられます。そこで別の類似する称呼として「カイテキカイゴ」というものも挙げられることになります。これを称呼2に入力します。該当するものが考えられなければ、ここは入力しなくても結構です。
区分は43と44を入力します。さて検索ボタンを押して検索してみましょう。
すると1件だけヒットすることがわかります。下の一覧表示をクリックすると該当する登録商標についての情報が表示されます。
これで「快適会員」という登録商標が、我々の調査対象の「快適介護クラブ」に、少なくとも形式的には類似していると考えられることがわかりました。
ただしこの2つの商標は、大きく外観(見た目)、観念などが異なるため、審査の過程で類似する登録商標として挙げられる可能性は大きくないと考えられます。また万が一裁判になっても、類似する商標とされる可能性はあまり高く無さそうです。理由はこの登録商標の類似群コードに、介護サービスに関連する「42W02」が含まれていないためです。これは登録番号の部分をクリックして表示される詳細画面で確かめられます。
赤丸の中に類似群コード「42W02」が含まれていないことを確認ください。商標権については、指定商品・指定役務が同一又は類似でないと、権利範囲に入りません。したがってこのレベルでは、「快適介護クラブ」という商標は使用しても安全そうだということがわかりました。言い換えると、他社の商標権を侵害する可能性は小さいと考えられます。
調査方法(3)精度を高める
さてここまででも、かなり安全度は高まりましたが、もう一息精度を高める検索方法を簡単に紹介しておきましょう。
- 称呼(単純文字列検索)
先ほどのトップページ
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage#
に戻っていただき、「2.商標出願・登録情報」を選択クリックします。すると
このような画面になります。ここで称呼(単純文字列検索)というところに、「?カイテキカイゴクラブ?」と入力して検索します。この検索は、カイテキカイゴクラブというそのものずばりの称呼を持つ商標を検索するものです。ここで細かいですが「?」マークは半角で入力ください。また検索キーワードは、例によって片仮名での入力をしてください。
- 商標(検索用)
もう一つは、「商標(検索用)」です。これも同様に入力して検索しますが、今度は実際に使用する文字「快適介護クラブ」を半角「?」で囲って入力します。
すると、ヒット件数はゼロと出ます。これでほぼ確実に、該当する登録商標がないことが確定しました。お疲れ様でした。
- ロゴの図形検索について
マークの検索も同じ検索システム、J-PlatPat内で可能なのですが、かなり専門的なので今回は割愛させていただきます。ざっくりいえば図形等商標検索というシステムを使用します。
商標登録出願の方法
商標登録出願は、もちろん出願人自身でも可能です。しかし正直とてつもなく面倒臭いです。もしも、ご自分での手続を望まれる場合には、お近くの自治体の知財総合支援窓口や発明協会にお問い合わせください。
しかし私は、自分の仕事だからというわけではなく、弁理士、特許事務所に依頼することをお勧めします。そのメリットを最後に書きましょう。
弁理士に依頼するメリット
面倒な事務作業は、出願の後も続きます。そのあたりの事情について簡単に説明してみましょう。
- 審査(拒絶理由通知)
出願をすると、商標登録出願の場合には、特許庁で自動的に審査が始まります。審査待ちの期間は現在約1年です。ここで意外に知られていないのは、商標の場合でも、ほぼ70%の出願に対して「拒絶理由通知」が送付されるということです。これに反論して審査官を納得させなければ「拒絶査定」となり特許にはなりません。拒絶理由としては、他の登録証との類似を指摘される場合が多いのですが、これに適切に反論しなければ拒絶されてしまいます。 - 登録手続と更新手続
首尾良く商標登録査定がされると、登録料を納付しなければなりません。この手続も色々面倒なのですが、もっと面倒なのは5年後、又は10年後にやってくる更新という手続です。特許庁からは期限についてなんの通知もなされませんので、自分で期限管理をしなければならないのですが、5年間、10年間という歳月はかなりの長期間です。もしも更新期限を徒過してしまい、更新手数料を支払わないとせっかくの商標権は消滅してしまいます。 - まとめ
このように事務作業が抜けなく確実に行われないと、商標権は取得できず、せっかく取得しても商標権は失われてしまうわけです。
信頼できる弁理士あるいは特許事務所に依頼すれば、多少費用は掛かりますが、以上述べたような心配からは、解放されることになります。例えば審査の結果、拒絶理由通知が送付されても、そのものずばりの登録商標がある場合を除けば、反論で拒絶という結果が覆る可能性もでてきます。そのあたりは専門家なので有償とはいえ、智慧を出してもらえます。また期限管理についても特許事務所は二重三重の管理をしており、手続期限を説かしてしまう可能性は極めて低くなります。
最後に
以上、長々と書いてきましたが、いかがだったでしょうか?できるだけわかりやすく書いたつもりですが、商標法には他にも様々な制度が含まれており、中には出願人にとって有利になる制度も少なくありません。また早期に権利化を進めるための方法もあります。このあたり、複雑に過ぎるのでこの記事には書き切れませんでした。申し訳ありません。
この記事を見ていただいたのもなにかの縁ですので、もしも商標登録出願だけに関わらず、特許権、実用新案権、意匠権や著作権といった知的財産権について御相談なさりたいことがございましたら、遠慮無く私をはじめとした弁理士、特許事務所へお気軽に御連絡ください。
彩都総合特許事務所(さいと そうごう とっきょじむしょ)
電話 048-650-2266
弁理士 川口 康(かわぐち やすし)